口腔ケアについて

口腔ケアとは,口腔衛生の改善のためのケア,すなわち口腔清掃を指しますが,最近ではもう少し範囲を広げて,歯石の除去,義歯の手入れ,簡単な治療まで含められる事が多いようです。 さらに,摂食・咀嚼・嚥下訓練まで含められる場合もあります。
口腔ケアとは,口腔清掃,歯石の除去,義歯の調整・修理・手入れ,簡単な治療などにより口腔の疾病予防・機能回復,健康の保持増進,さらにQOLの向上を目指した技術であるといえます。

とりわけ高齢者や要介護者における口腔ケアの目的としては,以下のことが挙げられます。
 1.口腔ケアによる全身の健康
 2.誤嚥性肺炎の予防
 3.QOL ( Quality of Life ) の向上

1.口腔ケアによる全身の健康

口腔内細菌と内科疾患との関連性、咀嚼(そしゃく:物をよくかみ砕き味わうこと)の機能と老化・認知症との関連性など、口腔環境がお年寄りの全身の健康と密接に関連していることが、近年明らかになってきました。細菌の塊である歯垢は、ムシ歯や歯周病の直接的な危険因子であると同時に、全身疾患を引き起こす菌の温床としての役割を果たす可能性が高いのです。口の中の細菌が関与すると考えられる代表的な全身疾患としては、
・感染性心内膜炎、敗血症
・虚血性心疾患
・誤嚥性肺炎
などがあげられます。

要介護高齢者は、健康な人にとっては病原体とはいえないような細菌によって、日和見感染症(ひよりみかんせんしょう:抵抗力が弱かったため、普通は病原性を示さない菌による感染症)、感染性心内膜炎や誤嚥性肺炎に陥ることがありますが、口腔ケアを行えばこれらの疾患を予防できることが分かってきました。
つまり口腔ケアは、単に歯や歯ぐきのためだけではなく、生活援助に加えて全身疾患の予防など、生命の維持・増進に直結したケアでもあるのです。

2.誤嚥性肺炎の予防

要介護高齢者は、口の中や義歯を自分で清掃することが難しくなるので、口の中にはこのような細菌が多く棲息することになります。しかも高齢になると口腔内自浄作用は低下し、口の中を清潔に保つことはさらに難しくなっています。
嚥下反射・咳反射の低下した高齢者は,睡眠中に不顕性の誤嚥をたびたび起こし,この際,唾液とともに口腔内の細菌も同時に誤嚥するため,高齢者にとって致死的な感染症である誤嚥性肺炎を起こしやすいといわれています。 そして,口腔内の細菌を減少させるためには,口腔ケアが有効なのです。
口腔ケアが誤嚥性肺炎の予防に有効であるという事実は,最近,歯科医療関係者にも認知され始めた事実であるのですが,残念ながら,介護の現場ではほとんど認識されていないのが現状です。 介護を要する人の生命を脅かす誤嚥性肺炎の予防ということに関しては,QOLの向上とは次元を別にして論じられるべき重要なことです。
生命の危険に直接関係のないと思われた口腔ケアまでは,なかなか手が届かず,後まわしにされていたというのが現状でした。「誤嚥を生じにくくする」ことも大切ですが、たとえ誤嚥しても誤嚥性肺炎に移行しないように、口の中の細菌を取り除いて清潔にしておく、つまり口腔ケアを行うことが重要です。

3.QOLの向上

介護支援専門員標準テキストによれば,介護支援専門員の基本視点の一つとして,ノーマライぜーションとQOLを挙げています。 そして,生活の質( QOL : Quality of Life )を高めるという考え方は,高齢者にとって重要な価値基準であり,質の高い生活とは,自分の求めている暮らし方が現実のものとなる生活であり,そうした生活にこそ,満足があり,喜びがあり,笑顔のあるはずであるとしています。
口腔ケアの充実により,口から食べること,おいしく食べることがすべての要介護者の自立とQOLの向上に寄与することに間違いありません。

介護の世界に革命を起こそう

フローレンス・ナイチンゲールに次いで世界でその名を知られている看護教育の指導者バージニア・ヘンダーソンが「看護の基本となるもの」という看護師のバイブル的な本の中に「患者の口腔内の状態は看護ケアの質を最もよく表すものの一つである」という一説を残され、大熊由紀子さんは「介護のレベルは、要介護者の口を見ればわかる」と表現しておられます。そして介護先進国では口腔ケアはとても大切にされています。

しかし残念ながら我が国では介護認定のアセスメントに口腔衛生の項目すらなく、要介護者の口の中は、十分な清掃がされずに汚れたまま放置されているケースが少なくありません。歯科の訪問診療においても、当面の治療のみで終わってしまい、その後の口腔ケアまでに至らないケースがほとんどです。これからは歯のある寝たきりの方が確実に増えていきます。意識ははっきりしているのに体の自由が利かず自分の歯で口中を傷つけてしまったり、歯で舌を挟んだままだったり・・・痛みを抱えながらも訴えることすらできない方が数多くおられます。 そんな時に「お口を診せてもらいに来ましたよ」と声をかけると瞳の奥でホッとされます。

床ずれについては体位変換やエアーマット、薬の進歩などの床ずれ対策によって消えつつあります。床ずれから寝たきりの人々を救った床ずれ対策は介護の偉大な革命です。
そして次の革命は口腔ケアだと思っています。
口腔ケアに、吸引をしながらの口腔ケアにたどり着きました。
介護の世界に革命を起こして、日本中の要介護者の口をきれいにして世界に誇れる介護先進国にすることが私たちの願いです。


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